#2 台湾カルチャーショック、ロシア彼女、シリコンバレーで2億5千万調達後売却した連続創業者のお話 – Allen Houng

免責事項: このメモはゲストから学んだ事を深く理解するためであり、私自身主観的な解釈が意識的、または無意識的に文字に反映されています。そのため、このメモよりゲストのお言葉の引用をお控えください。実際に何をどういう状況、口調、形で会話された内容に関しましては、ポットキャストYouTubeにて全てご覧頂けます。

台湾へ「逆輸入」

両親が台湾人だが、アメリカ生まれのエレンは、アメリカは最高の国だと信じて疑わない。12歳に台湾へ戻った彼は、同年の台湾人はとても幼稚だと感じた。バイリンガルの学校だったため、海外生まれの同級生も多かったが、やはりアメリカほどグレートではないという印象。

言葉、思考、行動などがアメリカ全く違う台湾はエレンにとって「逆輸入」のカルチャーショックを受けた。他人を軽蔑しながらも、彼自身が不足している部分も明らかだった。台湾人なのに中国語が書けないという所だ。母国語を学ぶのは大抵聞く話すから始まるように、彼は読み書きが出来なかったのだ。高校卒業時の中国語レベルは小学校5年生だという。

大学時代:ロシアと彼女

大学では電気工学科専攻だが、台湾大学や交通大学のような一流大学ではなかった。それは中国語が下手だったかどうかは定かではないが、彼の経歴とパーソナリティはユニークだったに違いない。後に彼の彼女となったロシア人も、そんな所に惹かれたのではないかと思う。

交換学生ということで台湾に来た彼女に惹かれた彼は、大学四年生の際にモスクワへ交換学生として赴いた。ヴォッカを水のように飲むロシア人(1リットルで800日本円くらい)、「タバコ一本くれないか」=「殴り合いしようぜ」という訳の判らん文化、ただで背が高いロシア女性が出かける際に必ずメイク+ハイヒールを履くという習慣など。台湾への逆輸入と同じく、カルチャーショック再びのエレンだった。

彼が滞在していた半年に、いくつか大きなテロ事件が起きた。地下鉄の車両が一つ丸ごと吹っ飛び、沢山の死者を出した事件は、戦死した夫の妻による自爆テロだったという。また、学校を丸ごと焼いた事件も、ネオナチスによる仕業だというもの。彼が住んでいた場所に近くに起きたが、幸いエレンには怪我がなかった。

彼はロシアに残り、ロシア語を習いながら仕事を探そうとも考えたが、恐らく日本や台湾のように、母国語が話せないとなかなか仕事に就けないということで、この美しきカップルは離れることになり、彼は台湾へ戻った。

FPGAと初仕事

台湾へ戻ってまもなく、就職先を決めなくてはならなかった。その合間にあるFPGAに関するコンペティションにエレンは参加した(FPGAは製造後に購入者や設計者が構成を設定できる集積回路であり、広義にはPLD(プログラマブルロジックデバイス)の一種である。現場でプログラム可能なゲートアレイであることから、このように呼ばれている)。

もともと天才肌の彼は、そのコンペティションで賞を得るほどの結果を残したという。よって、その主催会社が「君、なかなかの人材じゃないか」ということで、この会社がエレンの初仕事となった。

三年以上勤務してきたFPGAを製品とするこの企業で、彼はソーシャルメディア、製品紹介、デモビデオなど、外部向けの仕事から始め、最終的にプロジェクトマネージャーまでに上り詰めた。

勤務期間中に、独学でコンピュータ・プログラミングを学びショッピングウェブサイトとSNSをスタートアップしていた。いずれも良い結果残せなかったが、実戦でプログラマとしての能力をしっかり積んだ良い経験となった。それが後に2億5千万の融資に繋がるとは、彼は思ってもみなかっただろう。

シリコンバレーで2.5億円調達

ティム・ドレーパーはシリコンバレーでもっとも有名な投資家の一人で、過去に投資した有名な会社は、ツィッター、バイドゥ(百度)、ホットメール、スカイプ、テスラ、スペースX、アンジェルリスト、ソーラーシティ、ドキュサイン(DocuSign)、コインベース、ロビンフッド, ツイッチ(Twitch)、クルーズ( Cruise Automation)などなど。

そんなティム・ドレーパーが2012年に始めたドレーパー大学はアントレプレナー育成のプログラムだった。エレンはその翌年に選ばれ、世界各地から集まった優秀な若者と一緒に3ヶ月過ごすことになった。守秘義務があるため、詳しいプログラムは不明だが、アントレプレナーとしてのマインドセットを鍛えるためのワークショップやピッチ練習は欠かせないだろうと思う。

後に、エレンと彼のチームはLoopdというスタートアップアイデアで、アンジェルとシードラウンドで合計2.5億円調達したことなる。投資者はティム・ドレーパー、セールスフォースCEOのマーク・ベニオフ、前アマゾンCIOのRick Dalzellという羨ましい豪華なメンツで、シリコンバレーで起業生活まっしぐらの人生を始めた。

Loopdはイベントに参加者にIoTを駆使したバッジを使ってもらう事で、会場の動き、ブースの人気度、参加者間での名刺交換などをワンタッチ、または自動に出来る事を可能にした。スタートアップの経験者なら、起業はいかに大変なのかをご存知なはず。でも、ハードウェアが絡むスタートアップ経験者からしてみれば、ソフトウェアのみのスタートアップはやはり「ソフト」と言わざるを得ないほど、ハードウェアスタートアップはかなりハード。

もっとハードなのは、この時期にエレンは台湾大学のMBAを取得しながら、スタートアップを回していたのだ。本来MBAはクラスメートとよく遊んだり、一緒に宿題を討論したり、人脈を広げていく場ではあったが、彼にはそんな時間がなく、授業が終わると同時に姿を消していたという。めでたい結果として、彼は2016年に台湾大学のMBA取得した他、スタートアップにも「良い」ニュースが舞い降りた。

Loopdがエクジッドしたのである。最終的に、Aventriというイベント会社にLoopdを数億円で売却した。理由はハードウェアは金がかかる、そして2016年に資金調達は困難だったという。買収されるLoopdのメンバーは最低2年間AventriでLoopdの開発経営をしなければならなかった。AventriのDevOpsマネージャーの理不尽なマイクロマネジメントに耐えられず、やめたエンジニアもいたが、共同創業者は一人もやめなかった。エレンが2年7ヶ月後に離れるまでは。

そんな間でも、エレンはStagelightという新しいスタートアップを手掛けていたが、自分に高い要求をし続けてきた彼の身体がもうこれ以上ついていけなかった。薬を飲まないと眠れない、同じ毎日を繰り返し、生き甲斐が見つからないという鬱病になってしまった。

止まることなく新起点へ

スタートアップでよく出てくるキーワード「バーンアウト」は燃え尽きるという意味で、情熱、体力、資金のいずれかが無くなるというもの。2010年の初仕事であるFPGA会社勤務の合間から2020年まで、約10年間休むことなく突っ走ってきたエレンの身体と精神は臨界値に達していた。

もうこれ以上スタートアップで自分を追い詰めてはならないと決め、すっぱりと開発をシャットダウンした。友人や家族の助けなどを通じて、少しずつ鬱病の症状が緩和されていった。しかし、海をスイスイ泳ぎ回るマグロのように、「止まる」ことが出来ないエレンは次の仕事を求めていた。

そんな中、彼が過去10年間の経歴とほぼ100%マッチする仕事が現れた。アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)台湾がスタートアップ創業経験があり、技術に詳しい業務開発(BD)人材を探していた。本来LoopdはAWSではなく、グーグルクラウドを使っていたが、買収された後に、サービスのアーキテクトは全部AWSに統一したことで、AWSの使用経験もあった。また、当時グーグルでは似たようなポジションがなかったとエレンは語る。

スタートアップに比べて、大企業はプロセスが長く、学ぶ事も多い、特にAWSという凄まじいサービスの数を持っている企業は尚更だ。ただ、AWSという大きなスケールでありながらも、プロセスの簡易化、自動化、そして新しい提案の柔軟さを考えれば、他の企業に比べてよっほどましだという。自己学習のためのツールと情報においても、アマゾンは圧倒的に良いとのこと。

エレンの仕事に明確な目標があり、それは「アマゾングループと彼自身のリソースを利用して、スタートアップが成長するためのサポートを提供」。それがAWSアカウントに使えるクレジットだったり、大企業にスタートアップのソリューションを紹介したり、起業家のイベント開催、ワークショップ、そしてメンター指導などなど。

スタートアップが「何時」「何を」必要とするものを熟知している彼だからこそ、務める仕事であると共に、かつて燃え尽きた情熱を違う形で蘇られたさせた事になった。

現在鬱病からは逃れたエレンは、テニスや弓道(厳密に言うと、日本の弓道ではなく、弓を使って、矢を的に当てるというスポーツ)を通じて、運動量とメディテーションを行っている。ただ、薬を飲まないと全く眠れないという問題は未解決のまま。お医者さんからは「人生の悩みが無くなれば眠れる」という人間という生き物を全く知らない人工知能のようなアドバイスをもらった。というわけで、まだ解決策を模索しているエレンでした。

自分自身に対して、高い要求をしたり、高い目標を建てることは間違っていない。問題は、その目標を「いつ」達成するという、時間設定にある。特に何が起きてもおかしくないスタートアップの道程に、予想外の事件に合わせて調整しなければいけない中で、高い目標と短い時間のコンビネーションは凄まじいストレスを生む。確かにテスラやマッキントッシュなど、数え切れないほどのイノベーションはそのストレスの中で作られてきた。でもそうではないものも沢山ある(Linuxや相対論)。

人生は一本道のマラソンではないし、何をするにしても、身体と精神が良い状態でなければ望ましい結果に繋がりにくいということは、今のエレンは(身を持って)よく知っている。アントレプレナーはいつも問題を見つけ、解決方法を見出すという習性があるので、もしかするとエレンが眠れない事を解決出来るソリューションを開発したり、弓道の新しい楽しみ方を世の中に提供してくれるかもしれません。

実際のトークはYouTube & Podcastよりどうぞ。

About Dan Zen Learning

断然ラーニングはシリアル・アントレプレナー、IT業界の営業とマーケティングを熟知し、12年日本、10年台湾、6年北京での仕事経験を持つトライリンガル、毎日何らかを学んでいるダンより提供。
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