#8 データ分析でリーマンショックを逃れ、ベンチャーに活かせ、糖尿病者を救ったお話 – James Sa

免責事項: このメモはゲストから学んだ事を深く理解するためであり、私自身主観的な解釈が意識的、または無意識的に文字に反映されています。そのため、このメモよりゲストのお言葉の引用をお控えください。実際に何をどういう状況、口調、形で会話された内容に関しましては、ポットキャストYouTubeにて全てご覧頂けます。

台湾の一流大学卒業後、情報工学専攻の彼は台湾で一番有名なソフトウェア会社である「トレンドマイクロ」に入社した。後に香港で株トレーダーとして三年間活躍していた際、株市場に大きなクライシスがやってくると確信し、2007年に仕事を辞め、台湾へ戻った。その後の出来事は皆さんがご存知のリーマンショックでした。

ヤフーやいくつかのスタートアップを経て、自分自身の健康状態が徐々に悪化していくことから、飲食習慣を見直す事になり、そこで出会ったのが、ケトジェニック・ダイエット(ケトダイエット)だった。彼がファイスブックで立ち上げた「酮好」は、今では中華圏最大のケトダイエットページとなり、各国の病院や学者にデータや研究成果をシェアし、糖尿病を無くすように没頭しています。そんなジェームスとのトークメモをまとめました。

トレンドマイクロ時代

90年代の日本において、PCセキュリティといえば黄色パッケージのシマンテックだった。それをジリジリと根気よく追い上げ、後に日本一のシェアを取ったのがトレンドマイクロ。東証1部上場であるが、実は台湾人が立ち上げた企業で、「趨勢科技」を知らないIT就業者がいないほど、台湾が誇る数少ないソフトウェア会社である。

そんなトレンドマイクロは、ジェームスにとってエキサイティングな初仕事ではなかった。情報工学専攻の彼がこの会社にもっと魅力を持ってもよかったが、実は入社前に*宝くじの一等賞(700万円ほど)に当たったのである。ただ!神様のイタズラか、彼がそれを気づいたの際は既に当せん金の支払期間を7日過ぎていた。(*統一発票は消費者が物を購入した際のレシート。それに書かれている番号は、宝くじのように機能し、台湾政府が二ヶ月に一度当せん番号を公表する。現在の一等賞は1000万台湾ドル、約2700万円)。

トレーダー経験とリーマンショック

トレンドマイクロでプロセスエンジニアとして色々学んでいった彼だが、2001年にIT業界を大きく揺らがす出来事が起きた。ドットコムバブルの崩壊である。その上、22歳にして、台北市の200平米豪邸を見逃した彼は、700万円を「取り返す」ために株市場とバブルを猛勉強し始めた。

エンジニアだということで、データに関連する研究が得意なジェームスは、特にアルゴリズムを使ったクオンツ投資に興味を持ったという。クローラのプログラムを作り、台湾証券取引の歴史データを自動的に取得したり、1600年代に起きたオランダのチューリップ・バブルなどをも勉強していた。

どんどんそれに惹かれていったジェームスは香港でトレーダーになれる機会を見つけ、25歳の彼は迷うことなくトレンドマイクロと台湾を後にした。

新聞やニュースに頼った同僚と違って、ジェームスは100%データに基づいた分析をし、株の取引を行っていた。自分にバイアスが起きないように、取引株に関する一切の情報をシャットアウトしていたという。ブルンバーグ・ターミナルを駆使して、いくつか彼なりのインジケータを作った。

株の持ち主変化(株が取引される頻度)や企業が株を売る数量とタイミングなどの数値を自動的に取得するプログラム作り、アルゴリズムに基づいた取引をしていた彼は、トレーダーとしての良き成績を残しながらも、大きな懸念持っていた。何故なら、2007年に、これらのインジケータがバブルを示唆し、しかも徐々にエスカレートしていった。「どんどん買え!」という業界全体動向に反し、ジェームスはトレーダーを辞め、一年ほど旅に出た。

2008年のリーマンショックがもたらす被害はもう皆さんご存知の通り。

世界を喰らうソフトウェア

旅に出たジェームスがリラックスする他に考えていたのは、経済的に大きくそして長く成功を収められる方法。情報工学とトレンドマイクロでの経験もあり、株取引よりも、テクノロジーのほうが良いのではないかと彼は考えた。後にネットスケープの創業者であるマーク・アンドリーセンの名言「Software is eating the world」の通り、世界はソフトウェアに食われつつあった。

自分でスタートアップを立ち上げる前に、優れたソフトウェア・エンジニアの集まりであるヤフーに就職した。ここで沢山の優秀なエンジニアに会えたのみでなく、プロダクトデザインやユーザーインタフェースの人材にも頻繁に接触する事になった。徐々にスキルを身につけ、人脈を築きつつ、最先端のプログラミング言語やトレンドなどの知識を吸収したジェームスは、2011年にスタートアップの世界へ進出した。

スタートアップ

最初のスタートアップは台湾パソコンメーカーであるASUSとのジョイント・ベンチャー。スタートアップとして珍しい形でキックオフしたが、やるべきことに変わりはない。ASUSはiCloudのようなサービスを自身のスマホユーザーに提供したいということで、ジェームスのスタートアップを通じて、クラウドがスマホで活かされるアプリを開発していた。最終的に、2年3ヶ月で終わりを告げたが、この経験から学んだものは大きいという。例えば:

・もっと早くユーザーに使ってもらい、フィードバックに基づいた改善をすべきだった。

・ユーザーとソリューションに専念すべきだったが、チームの拡大に注目していた。

・ビジネスモデルが市場で通用するか否かをもっと早く確認すべきだった。

糖尿病寸前の出会い

その後も二つの事業を立ち上げ、スタートアップ人生まっしぐらの中、彼の健康状態は徐々に悪化していった。身長168センチ、体重80キロだったジェームスは、決して激デブではなかったが、標準とは言い難いで体型だった。彼は食事には油脂を極力避け、ほぼ毎日運動していたにも関わらず、体重が減らない上、体の数値が糖尿病になりつつある事を示していた。

彼がネットで色んなダイエット(飲食方法)を探していくうちに、ケトジェニック・ダイエットというものに出会った。脂肪を多く取るというコンセプトは、以前の彼の飲食習慣とは180度違うため、信じ難い上、実行に移るのに躊躇していたが、とりあえず実験してみようということで始めた。

一日に摂取する炭水化物を全体の5%以下にするのがケトダイエットの基本だが、以前炭水化物を沢山取っていた彼にとって、正に「試練」だった。実験翌日は全身無力で、脳も働かないため、休みを取ってしまうほど参っていたジェームスだが、次の日から体調が著しく良くなっていたという。「一般」的な飲食とケトダイエットの違いを簡単に説明すると:

脳は人体において一番エネルギーを必要とする部位である。平均重量1300キログラムしかない脳は、体重40 〜 50分の1の重さなのに、全体4分の1のエネルギーをも必要とする大食いである。そんな脳にエネルギーとして与えられるものは二つ。一つはグルコース(ブドウ糖)、もう一つはケトン体と呼ばれるもの。ブドウ糖は炭水化物や糖質から変換される事は、一般的に知られているので、あんまり聞かれないケトン体について、大和薬品のHPでこう紹介されている:

例えば山で遭難して10日間以上飢餓状態になっても、何らかの目的(修行や難病治療など)で長期間絶食しても、思考力や記憶力には全く障害はないはずです。その理由は、糖質や食事を全く摂取できなくても、体に蓄えた脂肪やタンパク質から肝臓でグルコースを生成できることと、グルコースが枯渇した状況で脂肪酸が燃焼するとケトン体(アセト酢酸とβ-ヒドロキシ酪酸)という物質ができ、このケトン体は脳のエネルギー源となるからです。ケトン体は細胞膜や血液脳関門を容易に通過し、骨格筋や心臓、腎臓、脳など多くの臓器に運ばれ、これらの細胞のミトコンドリアで代謝されてグルコースに代わるエネルギー源として利用されます。特に脳にとってはグルコースが枯渇したときの唯一のエネルギー源となります。つまり、グルコースを摂取しなくても、脳の働きは正常に維持されるのです。https://www.daiwa-pharm.com/info/fukuda/7521/

ジェームスが体験していた「無力さ」は、身体は長い間ブドウ糖を生産するように慣れていたため、急に供給が止まると、ケトン体を生産されるまでエネルギー不足してしまい、グロッキー状態になるというもの。彼のアドバイスとしても、徐々にダイエットを変えていくのが妥当だという。

酮好(トウハオ)の立ち上げ

再び健康を取り戻し、体重も3ヶ月で12キロ(80キロの15%)を減らすことに成功したジェームスは、ケトダイエットの効果に対して、もはや疑う余地もないほど自信を持っていた。それをもっと多くの人達に知ってもらいたいため、エクササイズのグループ/ページに彼自身のケトダイエット経験を細かく、投稿したのである(データも添えて)。その後、7日間グループメンバーからのバッシングをひどくもらい、理由はケトダイエットが危険で、死者も出ているなどという。

非難をしているのは投稿に対するコメントばかりだが、プライベートメッセージでは違う会話が行われていた。実はそのグループの中で「私もケトダイエットやっていて、凄く効果が出てます」というメンバーも結構いるようで、徐々にケトダイエットの話題を中心として交流するグループが出来上がっていた。頻繁な情報交換とディスカッション、及び新しいメンバーの加入により、現在では中華圏最大のケトダイエットグループとなる酮好(トウハオ)を立ち上げることになった。

グループの人数が膨らんでいく中、テレビや雑誌からのインタビューも増えていき、ジェームスの名と共に、酮好(トウハオ)の人気も急速に上がっていた。よって、様々なコラボや相談が舞い降りる結果となった。糖尿病患者からの相談、病院との研究成果交流、栄養士の再教育や交流など、彼は殆どの時間をケトダイエット関連の研究やイベントへ注ぎ込む事になり、新しいスタートアップを立ち上げるきっかけにもなった。

ケトダイエットxスタートアップ

身体がケトン体を「生産」しているかどうかを調べるために、一般的に3つの測定方法がある:血液、尿液と吐息。血液による測定は高い精度を誇るが、一度にしか使えない測定紙は100円以上かかるという高さだ。尿液は正確さと便利さからして、好まれていない。吐息はコスパと便利性が一番だが、精度は血液による測定ほどではない。

ジェームスは吐息による測定に目をつけた。コスパと便利性が圧倒的に良い上、テクノロジーによる改善が可能だったからだ。彼が共同創業した銓勝科技はAceto(エースト)という測定機器を開発し、既に数千人のユーザーが使用していて、英語、中国語と日本語に対応している模様。コストは本体購入のみのため、食前、食後、起きた直後などと気楽にケトン体が測定でき、測定結果をアプリで確認出来、歴史データによるグラフも見れるという便利さを兼ねている。

吐息によるケトン体測定の関連研究データが多くない中、中華圏最大ケトダイエットグループと測定機器のエーストによって、手軽なケトン体の測定がもっと多くの人達に届けられるだろう。「糖尿病を無くす」と目指しているジェームスは、病院とのコラボ、エンジニアリング及び得意のデータ分析を通じて、もっと色んな研究成果をシェアしてくれるに違いない。

酮好(トウハオ)Facebook Pagehttps://www.facebook.com/groups/ketoisgood/

Aceto(エースト)https://www.aceto.io/

About Dan Zen Learning
断然ラーニングはシリアル・アントレプレナー、IT業界の営業とマーケティングを熟知し、12年日本、10年台湾、6年北京での仕事経験を持つトライリンガル、毎日何らかを学んでいるダンより提供。
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